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執筆者の写真早稲田ラグビー戦術研究会

アルゼンチンVSニュージーランド第1戦

久しぶりの更新です。

というのも、最近はあまり特筆すべき試合がないと感じていたからです。

SRのプレーオフトーナメントは試験期間と重なっていたため、見ることが出来なかったので、最近はもっぱらチャンピオンシップの観戦ばかりでした。しかし、なかなか面白いと思える試合と出会えずにいました。ニュージーランドの試合を見ても、そのDFの組織としての未熟さ、また、それでも相手を圧倒してしまう個の力といった点に辟易していました。普通に観戦する分には十分熱くなれるプレーばかりなのですが、戦術的な観点から見ると正直物足りませんでした。

しかし、今回のアルゼンチン戦ではそのニュージーランドの組織DFの粗がとてもわかりやすい形で現れたので、久しぶりにブログを更新することに決めました。以下、雑感です。駄文ご容赦ください。



最近のニュージーランドは組織としてのDFはそれほど完成されていない印象があった。個人的に行われるアンブレラDF(すなわちただのギャップ)、FWとBKによる前にプレッシャーをかける意識や、そのスピードの差。WTBの状況判断。これらのものが全て世界ランキング一位のチームにはあるまじき完成度の低さに感じた。しかし、それを補う個の力に他国は圧倒されるばかりであった。


そんな絶対王者が今回の試合では格下のアルゼンチンに苦戦することになった。これはただ単にニュージーランドのDFが組織として未熟だっただけでなく、アルゼンチンのATスタイル、チームカラーなどがニュージーランドに相性が良いものであったということも大きな要因として存在する。


まず、世界のラグビーの戦術の潮流通りエリアを意識して試合を運ぶためのニュージーランドのキックは、アルゼンチンの強みであるカウンターアタックを誘うことになるため、非常に相性が悪かったと言える。アンストラクチャーからのアルゼンチンの攻撃力というのは、他国との試合を見てもわかるとおり、とても高いものである。それにもかかわらずセオリー通りキックを選択したのはニュージーランドの慢心とも言えるだろう。アルゼンチンのDFは面が綺麗に揃っており、突破するのは困難であるが、度々ゲインをしていたニュージーランドにはキック以外の選択肢も多数残されていたと考えられる。そのため、アルゼンチンの強みを封殺するために、ポゼッション重視のゲーム運びに切り替えるというチョイスは残されていたと思う。また、アルゼンチンは22mに入ってからスコアまでに時間を要するので、エリアにそれほどまでに固執する必要性がなかったとも考えられる。

少し話が逸れてしまったが、ニュージーランドのキック戦略というものはアルゼンチンに有利に働いたように感じられた。


また、ニュージランドが原則としているであろうタックラー1人+ジャッカラー1人というシングルタックルのシステムは、常に集団でアタックしてくるアルゼンチンに対してうまく作用していなかったように思える。さらに、アルゼンチン選手のボディコントロールのせいで、一人のタックラーではあまり対処できていないようにも感じた。これは、シングルタックルの後に二人目のプレーヤーがダブルタックルにいかずにボールに働きかけることでリサイクルを遅くするというニュージーランドの思惑が達成されなかったことを意味する。結果として、速いリサイクルにより、DFを振り切り、アルゼンチンは攻撃において常に主導権を握り、複数のオプションを用意することができた。本来のニュージーランドであれば、DFにおいても早いセットで相手の付け入る隙を作ることはなかったのかもしれないが、これまでこのシステムに甘え、セットに時間をかけてきたツケが回ってきたのではないかと感じた。このセットの遅さは致命的なものとなり、元来攻撃的なアルゼンチンを一層攻撃的なチームに変えることとなった。


このリサイクルの速さを元に、前半の終わりから後半にかけて、アルゼンチンはあらゆるチャンネルから多彩な攻撃を繰り出し、DFを翻弄した。ニュージーランドは個人としてのタックルを成功させつつも、組織としては常に後手に回ることとなった。そして、DF側のFWとBKの切れ目のギャップ部分を度々SOであるニコラス・サンチェスがブレイクすることで、ニュージーランドはDFの的を絞ることが一層困難になった。


さらに、アルゼンチンのアタックで印象に残ったのが、ダミアン・マッケンジー出場後の執拗なハイパントである。170cm程度の身長のマッケンジーに対して執拗にハイパントを蹴り続けることで精神的にも肉体的にもプレッシャーをかけ続けたアルゼンチンは、高い確率でハイパントを再獲得し、敵陣に効率的に侵入することができた。こうした、相手の弱点に対するアプローチの掛け方も個人ではなくチームとして動いているように感じられたため、アルゼンチン代表のアタックの戦術的な意図がとても強く感じられた。


このようにアルゼンチンは複数のチャンネルを効果的に使い分け、(比較的)早いリサイクルスピードを武器にニュージーランドにまともにDFさせないことによってゲイン、スコアを重ねていった。結果としてはニュージーランドのアタックの前に屈することとなったが、試合全体を通したイメージではニュージーランドにも遜色がなかったため、次戦では逆の結果となるのではないかと期待したくなる試合であった。



今回はアルゼンチンのATと、ニュージーランドのDFについてのみ言及しました。個人的みは、この試合には王者攻略の糸口が散見しているように感じました。全てのチームがこのような戦術を取れるわけではありませんが、早いリサイクルと多数のアタックオプションを持ってすればニュージーランドのDFを破ることができるという事実は他国を強く勇気付けることになったと思います。日本人が彼らを破るためにはフィジカル面の強化が必要ですが、こうしたDF面の弱点を徹底的に追求すれば、ジャイアントキリングも夢ではないと感じることのできる一戦でした。




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